東京電力現場社員を賞賛する『空気』

2011年3月11日に発生した東日本大震災東北地方太平洋沖地震)の後,福島第一原子力発電所において立て続けに事故が発生しています.事故の原因については様々なメディアが解説しており,東京電力の隠蔽体質を批判する声も数多く聞かれます.

その中で繰り返し語られる話として,「兵士は優秀だが将校はバカ」といった類のものがあります.現場は優秀だが経営者がなっていない,組織として機能不全に陥っている問題です.そしてそれに続く話は「現場は頑張っている.福島原発で処理に当たっている職員は英雄だ」といった類のものです.彼らを英雄視するつぶやきがツイッター上で流れています.

私には現場の士気を直接知ることはできないので,報道やネット上で紹介される情報でしか現場の雰囲気を垣間見ることができません.実際,福島原発で処理に当たっている職員の仕事には脱帽ものです.危険を伴う作業であり,被曝の閾値を政治的に上げる問題も検証すべきです.しかし,彼らを英雄視する視線には違和感を覚えます.

我々日本人は常々同質化の圧力を『空気』と呼び,日常生活の至る所でそれを感じています.それは戦時体制下から続く日本人の精神性に根差したものと語られます.今回の震災でその精神性は驚異的な秩序として海外のメディアにより紹介されました.日本人は平時から非常時の体制でいることを強いられているとの指摘もありました.

私には福島原発にいる人たちを英雄視する視線は『空気』と思えてなりません.今は現場への賞賛の声が多く東京電力の上層部のみが批判の対象ですが,今以上に被害が拡大すればその声は怨嗟に取って代わるでしょう.崩壊しつつある現場の特徴は,システムの欠陥を個人の献身的な働きで補完していることです.我々が福島原発にいる人たちに求めているのは,システムの欠陥を個人の犠牲でカバーしているという美談なのではないか.

冷静な視線が必要と思われます.